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■■遭遇 -鳥さんと歪の場合

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「おう、孝行息子。いい所に来た………これ鳥サンな」

「ちょっとくーさん。その説明……というか紹介。状況上紹介という言葉を使ってるけど、はっきり言って紹介じゃあなくない? 唯一明言されてた名前すら略称かつ愛称だし……愛はないけど。訳が分からなさすぎてむしろ笑えるんだけど。ああ、まあ冗談を意図してるんならそこそこ成功か。俺は全くもって面白くないけど」

「んで鳥サン、これ歪(ヒズミ)な」
「これだけ見事なツッコミを入れ、かつ、最後にきちんとフォローまでしたのに堂々の無視? 人を紹介するときって、普通自分との関係とか言わない? あなたの説明だと、さっきの息子発言が揶揄なのか本気なのかも判断できないんだけど。というかよく見なくても同じ顔だよね。どっちかというと双子? 双子なの?」

「相変わらず口数の多い鳥さんだなあ。そんなんじゃ嫌われるぜっ☆」
「……ぜっ☆ とか……ないね。ないない。本当やめてよね。キモチ悪いったらないよ。自分の歳とかもうちょっと自覚してっていつか言ったでしょ。……いつ言ったかって? 今」


長い黒髪を背中に流すままにしていた青年は、自らと同じ顔を持つ実父と、彼と仲が良いという極彩色の頭をした青年を交互に見て……一つ瞬いた。


■■遭遇 -鳥さんと歪の場合


語部の敷地。その渡り廊下で、青年――歪は実父である狂(クルイ)に引き留められていた。

「これでも巷じゃ、お茶目でカワイイともっぱらの評判なんだぜ? ……てぇか、キモチ悪いったあ、人に向けて使う評価じゃねぇよ」

……引き留められていた、が。
目の前の二人は、立ち止まった歪をよそに舌戦を繰り広げていた。
暫くの間、大人しくそれを眺めていた青年は、数度目の応酬が始まった所で小さく息をつく。
さらに続けようとする両者を、タイミングを計って手のひらで制した。

「ああ、聞いている。君が『足のない鳥』……極楽鳥、だろう」
二人の意識がこちらを向いた所で、短くそう口にする。
長く口上を述べると、飽きた二人がまた舌戦に戻りかねない。

歪の言葉に、極彩色の青年は大げさに目を見開いた。
自身の想定を超えたときにこそ使われるその表情は、しかしそれですらどこか演技のごとく予定調和な色を帯びている。
「何、くーさん。俺がいかに素晴らしくて素晴らしくて、ゆえに素晴らしいかとか事前に色々話しといてくれた訳? くーさんにしては珍しく気が利いたことしてくれたね。褒めてあげる」
まるで三文芝居の登場人物であるかのごとく大げさに、信じられない! とばかりに狂を見やった。

「おう、あんたもやっとオレの偉大さに気付いたかい。構わねぇぜ。そのまま褒め称え敬い崇め奉るがいいさ! 貢物はモモかサクラ餅でな」
対する狂も、どこか楽しげに答える。

「……注釈するなら、それは父上の功績ではなく、父上はこの件に関して全く労力を割いていない。俺はアーカイブに記録されていた情報から、狂が知る君を垣間見たに過ぎない」
そのやり取りを見るのに飽きたのか、歪がどこまでも平坦な声で両者の会話に割って入り、補足を入れる。
一つ息をついて続ける。

「更に注釈すれば、俺は語部一族第六十三代副当主、歪。そして、六十二代の副当主を任じられている狂は、紛う事無く正当な俺の実父だ」

一瞬、まるで石像かロウ人形かの如くぴたりと制止した青年は、一拍をおいて盛大に笑いだした。
「ははははっ、はっ、何コレ!! くーさんがくーさんにあるまじき真面目さと誠実さと、ついでに無表情を前面に押し出しながら平坦な声で喋ってるっ!! しかも息子!! 何コレ!! どうしたらこの親からこの子供が生まれるの!!! 正反対すぎて笑いが収まらないんだけど! 何コレ!! 俺を笑死にさせる策略!!!?」
青年は、さもおかしいと言わんばかりに、もはや息も絶え絶えに爆笑している。

「……ああ言っているが」
「ありゃあつまり、オレが不真面目で不誠実かつ表情が多彩だって言いてぇんだな」
隣を見やれば、歪が相変わらずの無表情で狂を見ている。
長い付き合いの狂だから分かることだが、歪は無表情のごとく薄い色合いで、しかし実に心外そうな顔をしていた。





青年はそっと、笑みの形に唇をゆがめた。
さあ、彼にとっての禁句、激昂するキッカケは、なんだろう。

怒りは思考を狭める。
それは、対話で自身を守る者ならば、その最中にはけしてしてはならないこと。
そして、自身が話を聞き出す側なら、もっとも扱いやすい状況。


歪の顔から、まるでするりと音がしそうなくらいに見事な速度で、表情という表情が全て抜け落ちた。

「……違うな。我らの持つこれは甘さでは無い。揺らぐ事の無い、自信だ」
声音からも、表情からも、仕草からも、彼の存在を証明するありとあらゆる情報、その全てから一切の色が消える。
それはまるで、演技を止めた人形のように。

「……挨拶が、まだ……だったな……………」


「………初めまして」

最初の声は、間違いなく目の前から。

「そして……」

「…………――サヨウナラ」
しかし、最後の声は……背後、それも吐息まで聞きとれそうなほどの至近距離で。


耳朶に突き刺さるような、低い声。
青年より若干身長の低い歪が、伸びをするようにして青年の耳元に唇を寄せていた。

視線を動かし見えた彼の左右の手には、一振りずつの片刃の剣。
背後から、青年の両の脇腹を通して前に出された手は、まるで抱きしめているかのような姿勢で青年を拘束している。
そこから伸びる二本の凶器が交わるそのすぐ先に挟まれたのは、青年の首。
その姿は、まるで大きな鋏のよう。

そしてそれは、歪が滅多に使うことのない、彼の本来の武器。


「いつでも殺せる、とでも……言いたいの?」
そんな状況でも物怖じせず気配を睨む青年の声に、歪は左右に持った剣を静かに下した。
そのまま、転移術でどこかに消してしまう。
極彩色の青年は、自由になった体で振り向くと、背後の青年を真っ直ぐに見やった。

歪が口を開く。
「さあ。もしそれが理由だと答えたなら、君の経験から判断して納得に足る……信ずるに足る理由になるかな?」

視線が、交差する。



「あなたといいラインといい、ユフィといい狂といい……なんでそんなに」
「ほう、白銀色の賢帝とも縁があるのか。『力を持たずも世界を渡るは、足を持たずに天を飛ぶ鳥』か。一見して解る程に数奇な運命を持って居る様だな。世界の意思(彼女)にでも好かれたのか」
後半はまるで独り言のように。
けれど青年は知っていた。彼のそれが、聞かれることを前提とした上での独り言であると。

「……ねえ、聞きたいんだけど。さっきからやたら出て来てる、その『足のない鳥』って何?」
だから青年は、話を少しずらすことにした。
口元に指を当て、どこか思案気だった視線が、青年の元に戻り、結ばれる。
「おや、君の世界には存在しない伝説、なんだろうか。極楽鳥……その名の由来」




その言葉に、青年はへえ、と、少し驚いたように薄く瞠目した。

「あなたは、くーさんよりずっと俺に近いみたいだ。……妙に詩的な言い回しを過多に使用したがることに関しては、現実主義な俺には全くもって理解できないけどね!」
目を細めて一つ笑った。それはまるで童話に出てくるチェシャ猫のような……とは、誰の言葉だっただろう。
対する歪も、目を細めると口端を若干だけ釣り上げた。彼にしては珍しい、表情。

「そう、『私』は『狂』の様に甘くは無い。唯一つの例外も無く一族の安寧と安定を最優先事項とし、情を持たず許容を許さない。因って、この場に留まろう間はその言動や行動に十全に気を張る事だ」
ごく薄い色彩の瞳を細め、歪は自身と同じ両で色の違う瞳を見つめる。
口元が描くのは、弧。それは紛れもない、笑顔だった。
しかし同時に……それは壮絶なまでに冷酷な色を湛えている。

「覚えておくと良い。語部において絶対的な秩序を織るのは、父上でも聖でも無く……私である事を」

「ふぅん」
歪の有無を言わせない言葉に、語調に……しかし極彩色の青年は、押されるでもなくただ暝い笑みを見せた。

「……じゃあ、あなたも覚えておくといい。アシノナイトリには、だからこそ秩序なんてアシカセにはならないってことを!」
両手を広げる。それはまるで三文喜劇の役者のごとく、ただひたすら大げさに。

「愛(束縛)も愛(依存)も愛(関係性)にも、愛(家族愛)も、愛(隣人愛)に見せかけた愛(自己愛)でさえ!! 俺の枷にはけしてなりえないんだとね!!」


讃美歌でも歌うかの如く両手を広げて天を仰いだ青年は、その視線を目の前の青年までゆっくり落とすと、一つ目を細めた。

「この世の全てからがんじがらめに捕えらてるあなたに……果たしてこの身軽な俺を捉えることが、出来るかな?」

無邪気な笑顔で、完璧な微笑みで、青年はただ笑って言った。


END. 2010.08.31
すみません。最後に歪がにっこり笑って仲直り的な感じになる筈が……。
うっかり鳥さんが喧嘩を買ってしまって、険悪な感じに終わっ……た。
いや、仲はいいと思うんですよこの二人!
ただ、両者どこまでも現実主義な調子で会話をするので……周囲から見ると険悪に見えることもありそうだと。

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