つなビィブログ内検索ブクログ |
語部な日常制作中イラストや日記用イラスト、雑記雑感などを中心に展開中。まれに版権話や小説が出ることも。PAGE | 245 244 243 242 241 240 239 238 237 236 235 | ADMIN | WRITE 2008.06.01 Sun 00:11:07 語部たちのそんな日常~師匠と土産と守護家の当主~久し振りに小説書きました。
完全に感覚を忘れていたので、何だか最初と最後で雰囲気が違う感がありますが。 ……で、出来れば笑って許容して下さい; ほのぼのコメディで、登場人物は刃+歪+綴+焔。話しているのは殆ど刃と歪です。 「オレさぁ。時々思うんだけど……兄貴と焔って、時々オレよりアホだよな」 それは、刃がこぼした言葉。呆れたように見つめる先には、死闘を続ける前述二人。 ■■語部たちのそんな日常~師匠と土産と守護家の当主~ 「貴様の力はその程度かっ、焔ぁ!」 怒号。広くて涼しい道場だけに、その声はやたら響いていた。 発したのは、何と恐ろしい事に綴(ツヅリ)。いつもは柔和な顔立ちも、今は不敵で不気味な笑みに彩られている。 声を張り上げ挑発する綴だが、自身はすり足を巧みに使い、己の間合いをぴたりと守っていた。 今回は、模擬戦ゆえに竹刀の間合いである。 見据えるのは、女性――第二守護家当主の焔(ホムラ)だ。 「キサマこそ! そんな踏み込みでアタシを捉えられると思ってるのかっ!? 笑止っ!」 その挑発に乗ってなのか、焔も声を張り上げる。持つのはやはり竹刀。 浮かべる表情は、やはり不敵で不気味で、更に楽しげな笑み。 二人揃って、戦闘狂のスイッチが入っている事は一目瞭然だった。語部の本邸では稀に見られる光景である。 「オレさぁ。時々思うんだけど……兄貴と焔って、時々オレよりアホだよな」 ぽつりと、しかし明瞭に言葉を発したのは刃(ヤイバ)。 現在竹刀で死闘を繰り広げている綴の実弟である。 繰り返すが、両者武器は竹刀である。余程の事が無ければ死人は出ない……筈、なのだが。 そこは、それぞれ守護家の当主である綴と焔の戦闘である。竹刀どころか、視線で人を殺せそうだった。 刃は、呆れたように二人を見つめ、そしてそのまま少し目線を動かし隣を見やった。 視線の先には、長い黒髪の青年――歪(ヒズミ)。 観戦中なだけに視線は目の前の戦闘に向けたまま、一つ瞬きをした。次いで出るのは、苦笑。 「……教育方針を間違えただろうか」 何を隠そう。第一守護家の当主綴と、第二守護家の当主焔に武術を教えたのは、他ならぬ歪なのである。 ちなみに、語部は人の寿命の倍くらいを生きる長命種で、姿と年齢は必ずしも一致しない。 刃はそれまで気だるげについていた頬杖を解いた。 「何やってたんだ?」 歪の台詞の内容が気になったのか、興味深げに聞き返す。 刃の訝しげな視線に、歪はやはり苦笑で返した。視線は相変わらず、死闘真っ只中の守護家当主コンビに向かっている。 「……帰る度に模擬戦をさせていた。より強くなっていた方に、一つ多く土産をやっていたのだが」 笑うように発せられた明瞭な響きのそれに意表を突かれたのか、刃は目を見開いた。 ぱちくりと音が出そうなくらいに瞬きをする。 飲み込めた辺りで、ため息を一つ。 「それは……なんつーか、アレだな」 一呼吸置く。言葉が見つからないのか、一瞬視線を泳がせた。 「土産が目的っつー訳じゃなくて、大好きな師匠(せんせい)に褒めて貰いたくて必死だったんだな。きっと」 しゃべりながら、自分は今きっととてもしよっぱい(しょっぱいでは無い)顔をしているだろうななどと思っていた。 隣を見やれば、歪はいつもの無表情に戻っていた。が、付き合いがソコソコに長い刃には分かる。歪は微妙に困ったような顔をしている。 「…………」 刃はもう一度ため息をつくと、視線を歪から離し、今一度頬杖をつく。 目の前で繰り広げられている死闘は、どうも硬直状態に入ったようだ。両者相手の出方を伺っている。 「じゃあ、アレか。この、シャレにならねぇくらい熱の入った模擬戦……は、いわば歪争奪戦の名残、か?」 決定打は無いが、きっとそう外れてもいないだろう。 この、それぞれ『鬼神』と『炎帝』などという大仰な二つ名を背負う二人は、その実結構歪っ子だ。 少なくとも、刃はそう認識している。 激しくしよっぱい顔になった。 「なんつーかもう。呆れるを通り越えて言葉もでねぇよ」 「刃」 歪が控えめに、しかし躊躇い無く刃を呼ぶ。 「何だ?」 「……気を付けろ」 「は?」 何をどう? と聞き返す事は無い。と、言うか。聞き返そうとした言葉は、竹刀の対決で何故か響いた金属音によって遮られたのだ。 いわく、ガッキーッンッと。 刃は状況を把握しようと視線を試合中の二人に向けた。瞬間。顔の前で、何かがキラリと光った。 条件反射で、体を左に大きく傾ける。 恐る恐る隣を見やれば、壁に突き刺さったそれは、全長二十センチメートルはあるだろう長い針。焔が稀に使用する暗器である。 こんな物が顔にぶっ刺さっていようものなら、確実に死んでいた。 「……竹刀以外の武器は禁止だったんじゃ……無かった、か?」 体を傾けた姿勢のまま固まっている刃の、非難めいた言葉に、歪はしかし至極冷静に返す。 「綴も使っていたようだ」 刃は、なるほど。と、うなずきかけて、はたと気付く。 先程の歪の警告は、『二人が自身の武器を使い出したから』気を付けろ、と、そう言う事か。 それならばそうだと先に言っておいて欲しい。 危うく無駄に死に掛けた。ここで死んだら、はっきり言って犬死どころの騒ぎではないだろう。 だが、そんな刃に構う事無く。 危うく刃を殺しかけた元凶たる二人は、先程響いた金属音以降何やら硬直していた。と。 「「師匠!!」」 思った矢先に、両者同時に物凄い勢いで歪に向かって振り向いた。音にするなら確実にブォンッ×2、である。 「なんだ?」 余りの勢いに、つい身を引いて壁に頭を打ち付けた刃だったが、当の歪はそうでも無いらしく、普段と全く同じ感覚で対応していた。 歪とはソコソコ付き合いの長い刃だが、こう言う場面での彼の感覚は未だに良く分からないと思っている。 しばらく待っても応えの無い二人に、歪がもう一度問い返そうと口を開く。 「……どうし「「今のはどっちが勝った!?」」 歪の二度目の問いかけが形を成す前に、二人は意を決したのか競うように声を張り上げた。 殺気がうっかりこちらにまで向かって来ている。 その言葉に、歪は口元に人差し指を当て、考える仕草をとった。 「………引き分け、だな」 しばらく間を置いた後の応えに、綴と焔はがっくりと肩を落とす。 が、直後には互いに向き直って竹刀を構えなおしていた。 「もう一戦だ焔っ!」 「受けてたってやるよ綴っ!」 まだやるのか、と、刃が本日三度目のため息をつこうとした所で。 大きく手を打つ音が二度道場に響いた。がらんどうの道場に、その音は意外な程によく響く。音源は、歪。 自身が発言するに当たって、いきり立つ綴と焔の気をとりあえず引こうとしたのだろう。 「良い加減にしなさい。殺傷力の高い武器の使用は禁止する言っただろう。道場が痛んだ場合、直すのは俺なのだから」 歪が心なし呆れたような口調でやんわりと叱声を飛ばす。 心配なのは道場の保全の方か。 「……すみません」 「……ごめんなさい」 歪の何だかアレな叱声に、しかし綴と焔は即座に反応した。 語部の双璧と名高い二人の微妙な姿に、刃は複雑な表情を浮かべる。刃は未だ、この二人に一勝すらした事がないのだ。 「……何て言うか……アレだな。うん。やっぱ歪だ」 最後の言葉は、結局音にはならずに消えていった。 いわく、『確実に、語部一族のヒエラルキーの頂点に立ってる』だそうな。 とある晴天の日の話だった。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |