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語部たちのそんな日常~師匠と土産と守護家の当主~

久し振りに小説書きました。
完全に感覚を忘れていたので、何だか最初と最後で雰囲気が違う感がありますが。
……で、出来れば笑って許容して下さい;
ほのぼのコメディで、登場人物は刃+歪+綴+焔。話しているのは殆ど刃と歪です。



「オレさぁ。時々思うんだけど……兄貴と焔って、時々オレよりアホだよな」
 それは、刃がこぼした言葉。呆れたように見つめる先には、死闘を続ける前述二人。

■■語部たちのそんな日常~師匠と土産と守護家の当主~


「貴様の力はその程度かっ、焔ぁ!」
 怒号。広くて涼しい道場だけに、その声はやたら響いていた。
 発したのは、何と恐ろしい事に綴(ツヅリ)。いつもは柔和な顔立ちも、今は不敵で不気味な笑みに彩られている。
 声を張り上げ挑発する綴だが、自身はすり足を巧みに使い、己の間合いをぴたりと守っていた。
 今回は、模擬戦ゆえに竹刀の間合いである。
 見据えるのは、女性――第二守護家当主の焔(ホムラ)だ。
「キサマこそ! そんな踏み込みでアタシを捉えられると思ってるのかっ!? 笑止っ!」
 その挑発に乗ってなのか、焔も声を張り上げる。持つのはやはり竹刀。
 浮かべる表情は、やはり不敵で不気味で、更に楽しげな笑み。
 二人揃って、戦闘狂のスイッチが入っている事は一目瞭然だった。語部の本邸では稀に見られる光景である。
「オレさぁ。時々思うんだけど……兄貴と焔って、時々オレよりアホだよな」
 ぽつりと、しかし明瞭に言葉を発したのは刃(ヤイバ)。
 現在竹刀で死闘を繰り広げている綴の実弟である。
 繰り返すが、両者武器は竹刀である。余程の事が無ければ死人は出ない……筈、なのだが。
 そこは、それぞれ守護家の当主である綴と焔の戦闘である。竹刀どころか、視線で人を殺せそうだった。
 刃は、呆れたように二人を見つめ、そしてそのまま少し目線を動かし隣を見やった。
 視線の先には、長い黒髪の青年――歪(ヒズミ)。
 観戦中なだけに視線は目の前の戦闘に向けたまま、一つ瞬きをした。次いで出るのは、苦笑。
「……教育方針を間違えただろうか」
 何を隠そう。第一守護家の当主綴と、第二守護家の当主焔に武術を教えたのは、他ならぬ歪なのである。
 ちなみに、語部は人の寿命の倍くらいを生きる長命種で、姿と年齢は必ずしも一致しない。
 刃はそれまで気だるげについていた頬杖を解いた。
「何やってたんだ?」
 歪の台詞の内容が気になったのか、興味深げに聞き返す。
 刃の訝しげな視線に、歪はやはり苦笑で返した。視線は相変わらず、死闘真っ只中の守護家当主コンビに向かっている。
「……帰る度に模擬戦をさせていた。より強くなっていた方に、一つ多く土産をやっていたのだが」
 笑うように発せられた明瞭な響きのそれに意表を突かれたのか、刃は目を見開いた。
 ぱちくりと音が出そうなくらいに瞬きをする。
 飲み込めた辺りで、ため息を一つ。
「それは……なんつーか、アレだな」
 一呼吸置く。言葉が見つからないのか、一瞬視線を泳がせた。
「土産が目的っつー訳じゃなくて、大好きな師匠(せんせい)に褒めて貰いたくて必死だったんだな。きっと」
 しゃべりながら、自分は今きっととてもしよっぱい(しょっぱいでは無い)顔をしているだろうななどと思っていた。
 隣を見やれば、歪はいつもの無表情に戻っていた。が、付き合いがソコソコに長い刃には分かる。歪は微妙に困ったような顔をしている。
「…………」
 刃はもう一度ため息をつくと、視線を歪から離し、今一度頬杖をつく。
 目の前で繰り広げられている死闘は、どうも硬直状態に入ったようだ。両者相手の出方を伺っている。
「じゃあ、アレか。この、シャレにならねぇくらい熱の入った模擬戦……は、いわば歪争奪戦の名残、か?」
 決定打は無いが、きっとそう外れてもいないだろう。
 この、それぞれ『鬼神』と『炎帝』などという大仰な二つ名を背負う二人は、その実結構歪っ子だ。
 少なくとも、刃はそう認識している。
 激しくしよっぱい顔になった。
「なんつーかもう。呆れるを通り越えて言葉もでねぇよ」
「刃」
 歪が控えめに、しかし躊躇い無く刃を呼ぶ。
「何だ?」
「……気を付けろ」
「は?」
 何をどう? と聞き返す事は無い。と、言うか。聞き返そうとした言葉は、竹刀の対決で何故か響いた金属音によって遮られたのだ。
 いわく、ガッキーッンッと。
 刃は状況を把握しようと視線を試合中の二人に向けた。瞬間。顔の前で、何かがキラリと光った。
 条件反射で、体を左に大きく傾ける。
 恐る恐る隣を見やれば、壁に突き刺さったそれは、全長二十センチメートルはあるだろう長い針。焔が稀に使用する暗器である。
 こんな物が顔にぶっ刺さっていようものなら、確実に死んでいた。
「……竹刀以外の武器は禁止だったんじゃ……無かった、か?」
 体を傾けた姿勢のまま固まっている刃の、非難めいた言葉に、歪はしかし至極冷静に返す。
「綴も使っていたようだ」
 刃は、なるほど。と、うなずきかけて、はたと気付く。
 先程の歪の警告は、『二人が自身の武器を使い出したから』気を付けろ、と、そう言う事か。
 それならばそうだと先に言っておいて欲しい。
 危うく無駄に死に掛けた。ここで死んだら、はっきり言って犬死どころの騒ぎではないだろう。
 だが、そんな刃に構う事無く。
 危うく刃を殺しかけた元凶たる二人は、先程響いた金属音以降何やら硬直していた。と。
「「師匠!!」」
 思った矢先に、両者同時に物凄い勢いで歪に向かって振り向いた。音にするなら確実にブォンッ×2、である。
「なんだ?」
 余りの勢いに、つい身を引いて壁に頭を打ち付けた刃だったが、当の歪はそうでも無いらしく、普段と全く同じ感覚で対応していた。
 歪とはソコソコ付き合いの長い刃だが、こう言う場面での彼の感覚は未だに良く分からないと思っている。
 しばらく待っても応えの無い二人に、歪がもう一度問い返そうと口を開く。
「……どうし「「今のはどっちが勝った!?」」
 歪の二度目の問いかけが形を成す前に、二人は意を決したのか競うように声を張り上げた。
 殺気がうっかりこちらにまで向かって来ている。
 その言葉に、歪は口元に人差し指を当て、考える仕草をとった。
「………引き分け、だな」
 しばらく間を置いた後の応えに、綴と焔はがっくりと肩を落とす。
 が、直後には互いに向き直って竹刀を構えなおしていた。
「もう一戦だ焔っ!」
「受けてたってやるよ綴っ!」
 まだやるのか、と、刃が本日三度目のため息をつこうとした所で。
 大きく手を打つ音が二度道場に響いた。がらんどうの道場に、その音は意外な程によく響く。音源は、歪。
 自身が発言するに当たって、いきり立つ綴と焔の気をとりあえず引こうとしたのだろう。
「良い加減にしなさい。殺傷力の高い武器の使用は禁止する言っただろう。道場が痛んだ場合、直すのは俺なのだから」
 歪が心なし呆れたような口調でやんわりと叱声を飛ばす。
 心配なのは道場の保全の方か。
「……すみません」
「……ごめんなさい」
 歪の何だかアレな叱声に、しかし綴と焔は即座に反応した。
 語部の双璧と名高い二人の微妙な姿に、刃は複雑な表情を浮かべる。刃は未だ、この二人に一勝すらした事がないのだ。
「……何て言うか……アレだな。うん。やっぱ歪だ」
 最後の言葉は、結局音にはならずに消えていった。

 いわく、『確実に、語部一族のヒエラルキーの頂点に立ってる』だそうな。
 とある晴天の日の話だった。

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