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創世記

誰も知らない、創世記。

ソレは、たった一人きりでした。
何もない世界。踏みしめる大地も、見上げる天もない……世界。
そこに佇む、かつて『管理者』と呼ばれたソレは、たった一つの無ではない存在にして、この何もない世界の王でした。
完全な存在である彼(あるいは彼女)は、それゆえに望むものもなく。
全ての事象は彼(あるいは彼女)の元で完結し、彼の思考は、全て彼の中で完結する。
完全ゆえに求めるものもなく、掛けた所がないゆえに全ての事象はそこで完結する。
けれど、掛けた所のないそれは。まるで……無であることと変わらないようで。
全てを持っているがゆえに、そこには何も存在しなかったのです。

だから。
あるとき彼(あるいは彼女)は、自らの存在を二つに分けました。
生まれた無垢なる存在は、彼とは対極にあるもの。
けして完全ではなくなった彼は、ゆえに彼女を愛しく想う心を手に入れました。

彼は、彼女が休めるようにと世界を大地と天に分け、
彼女が暗闇に怯えないように、天を星で彩りました。
彼女が寒くないように、世界に色をつけ、
彼女が寂しくないように、沢山の生き物を創りました。
そして、彼女が自分の存在をなくさないように、自らを『天の王』と呼び、彼女に『地の王』と名付けました。

そうして世界に箱庭を作った彼は、けれど自らが地に降り立つことはけしてありません。
彼には、『無に返る前の世界』で背負った咎があったのです。
完全であったときには、罪であると思うこともなかった、咎。

そして彼は、自らの過ちに気付きます。

完全でなくなった彼は、『彼ら』と同じ存在になっていたのです。
『彼ら』は、欲するものの多さゆえに身を滅ぼしました。

彼(あるいは彼女)は、世界の正しい姿は無であると、思っていた筈でした。

彼女を愛した彼は、自らの心を恐れました。
彼女を想う心が、いつか『彼ら』と同じ過ちを犯すのではないかと。

悩み続けた彼は、ついに一つを決めました。
彼女に、自らの力のうち、半分と少しを差し出したのです。
できることが狭まるようにと。

そして。

彼がどうしようもなく外れてしまった時には、彼より強いその力で。

自らを殺してくれるようにと。



それから、数千年も数万年も後のこと。
地の王は、その力で、自らに近い存在……ヒトを創り出しました。
それは、『彼ら』と同一の、存在。
世界は繁栄し。
そして、過ちの運命は……加速を、始める。

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