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■■それは墓標 過去の人

カルテットでお世話になっている琉綺様宅の前国王様と、うちの狂が既知っぽくなったので。
頂いたネタより、墓前に語りかける狂のお話を。

若干の修正をいれました。
男が一人、佇んでいた。
目の前に座するのは、物言わぬ……墓標。

刻まれた名は、長い。国名を冠するそれは、先代の国主のもの。


事実をただ突き付ける冷たい証に、男は一つ目を細めた。
吹いた強い風が、黒い髪を弄ぶ。

「……なあ………」

乱された髪を手のひらで梳いて、目を眇めたままそっと、唇を開く。
鼓膜を震わせた自身の声は、聞いた自分が驚くほどにかすれていた。


「……なあ、アンタは……」
物言わぬソレに、問いかける。
その奥にいる、人に。その奥にある、人に。

一心に墓標を見つめる目は、しかし、けしてそれを見てはいなかった。
彼が見るのは、きっとそれより……ずっと遠くの。

「なあ、アンタは。何かを護り……きれたのかい?」
それは、疑問。その形式をとった、自問。


「何かを伝えて……行けたのかい?」

男はただ静かに、事実を定める視界を閉ざす。
そうして見えたのは、緋色の、髪。夕陽色の……双眸。

「何かを遺して……逝けたのかい?」

言葉は、続く。ただ、朗々と。
いつの間にか凪いだ風は、まるで世界がその瞬間時間を止めてしまったかのようで。

音のない世界で、声はただ広がり、滲んでは消えた。それは水面に広がる波紋のように。


「なあ、「緋色の暴君」」

あえて呼んだことのない呼称で、彼の人を、呼ぶ。
それは「橙色の賢帝」に対して表現した、呼称。

「……なあ、友よ」

呟くように、そして、どこか祈るように、ただその言葉を口に出す。

「……親愛なる人よ………」


先を呟こうとした唇は、しかしそれをせずに役目を終えた。


――アンタは……証を残せた、かい?

――アンタは…………悔いなく、逝けたのかい?


「なあ……」


――………なあ、アス。アステリア……アンタがそうなのだとしても……


………オレは…………もっと、アンタと…………




…………………………………………話したかったんだぜ?

再度流れ出した緑色の風に、最後の言葉はほどけて消えた。


END. 2010.09.06.

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