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語部な日常制作中イラストや日記用イラスト、雑記雑感などを中心に展開中。まれに版権話や小説が出ることも。PAGE | 831 830 829 828 827 826 825 824 823 822 777 | ADMIN | WRITE 2010.08.25 Wed 18:21:12 ■■それは昼下がりの会話カルテットより、センリ様宅の鳥さんと絡ませて頂きました。
なぜ中々鳥さんと絡む事ができないのかと言えば。頭がいい人の会話が…………壮絶に難しいからです。 どう足掻いても知性溢れる会話にならないのは……私の頭が足りていないからだと思います。 「分からない! どうしてそうなる!? 俺の世界の法則では縛れず、計ることも出来ない事象!! どう考えても、どこまで思考しても理解しがたい法則!! ああ、なんて面白いんだろう!」
左右で違う色の目を輝かせて、彼はただ、賛辞を叫んだ。 ■■それは昼下がりの会話 「おう、鳥サンじゃねぇか」 執務室に向かおうと縁側を進んでいた男――狂(クルイ)は、縁に座る極彩色を見つけ、声をかけた。 極楽鳥の名を持つ極彩色の青年は、よほどこの世界の法則が面白かったのか、暫く留まりたいと申し出ていた。 無論、語部にそれを断る理由もなく、青年は好きな場所で好き勝手に寛いでいる。 のんびりなのか何なのか、とりあえず縁に座って庭を見ていた青年は、億劫そうにこちらを向いた。 「……何? そんな所で立ち止まって。俺の顔になんかついてたー?」 現状この屋敷を管理している男に対してでも、彼は変わらず皮肉な言葉を返す。 もしかしたら、それでも彼を追い出すこともなく、むしろにやにやと面白そうに見やる男の……その反応を探ることが面白いのかもしれない。 「なんもついてねぇよ。あんたがそこで暇そうに座ってるから、思わず声をかけたまでさ」 青年は至極心外そうな顔をする。それは、まるで芝居のように大げさに。 「暇そう? 俺はここで暇という事象を堪能してたんだよ。よって俺は暇じゃあないんだから邪魔しないでよね」 その、言葉遊びのような何とも言えない論理に、男は一つ苦笑した。 「……その台詞はツッコミ待ちなのかい? 面倒くせえ鳥サンだな」 お互い見合ったまま、特に動きもなく時が動く。 と。 男が唐突に、何か面白いことでも思いついたかのようににやりと笑った。 「そうさな。あんた、暇なら手品でも見ないかい?」 その言葉に、青年は面倒くさそうに、けれど口で言っていたほど暇を堪能していた訳でもないのだろう、存外素直に従った。 見やすくするためだろう、わざわざ体をこちらに向け直すことまでしている。 それを、どこか面白そうに見やりながら、狂はシガーケースから煙草を一本取り出した。 「ここに一本の煙草がある。よーく見てな………ほれ」 右手につまむように持っていた煙草は、狂が一度手を閉開した拍子に忽然と消えていた。 若干わくわくとしていたように見えた青年の目元に、分かりやすく失望の色が乗る。 「かなり初心者向けの手だね。右手を握りこんだ拍子に、手の中の煙草を手袋に隠したでしょ」 面白くなさそうに回答を口に出す青年に、しかし狂は相変わらずにやにやと笑っている。 「ふむ。バレたかい。じゃあ、これはどうだい」 そう言うと、手袋から出した煙草を、再度右の手でつまむ。 「…………いよっ……と」 青年の目が、すっと細められる。 「今度は、右肘を撫でる左手に意識を逸らしてる間に、後ろに回した右手の煙草を着物の襟に隠した」 失望の色を隠さず、あからさまに面白くなさそうに………しかしそれでも、存外律義にタネを答える。 余談だが。実の所あれは案外人の良い男なのかもしれないな。とは、狂の談である。 「くく。極彩色の鳥サンは、中々に観察眼が鋭いな」 対して狂は、そんな青年をからかうかのような間合いで(実際そうなのかもしれない)言葉を重ねた。 聞いた青年は、斜に構えた姿勢で少しばかり不機嫌そうに目を眇める。 「さっきから思ってたけど……あなたの手品はどうにも古いね。一昔前に流行ったような陳腐な手ばかりだ」 からかう言葉に機嫌を損ねたのか、それとも、それすらもコミュニケーションを円滑にするための演技なのか、いかとも判断しがたい口調でそう言い放つ。 「くく、中々に手痛い評価だぜ」 そう言いながら、再再度右手につまんだ煙草。 「じゃあ……これでどうだい?」 その前を左手が素早く通り過ぎる。目隠しだ。 煙草が青年の前から姿を消したのは、ただの一瞬。 その一瞬、狂の表情がこれまでとは打って変わって、と、いっていいほど真剣な色を帯びていたことに、聡い青年は気付いていた。 それを意外に見ながらも、とりあえずはタネを明かそうと思案する。 「………左手を重ねたときにそっちに、違う、左手は触れてない……襟……袖…………あわせ……無理だ……! 今の一体どうしたのくーさん?」 青年が、先ほどより若干身を乗り出して、真っ直ぐな目で聞く。 それがそのまま、タネ明かしをねだっているようで、狂は一つ笑みを浮かべた。 そうしていると、彼がまるで年相応の子供であるかのように見える。 「もっかい見せてやろうかい? …………ほれ」 先ほどと同じ動きで、左手が右手を隠した。と。今度は、煙草が何事もなかったように右手につままれていた。 それを食い入るように見つめていた青年は、しかし一瞬後には、お手上げとばかりに肩をすくめる。 「……………………ダメ。分かんない。タネなんてないみたい」 「おう、流石だな鳥サン」 狂の惜しみない賛辞に、しかし青年は不機嫌そうに眉を寄せる。 「皮肉ってんの?」 「いいや、この手品には種がねぇのさ。ちっと意地悪だったかねぇ」 「ない……って…………どういうこと?」 にやりと笑った狂は、自身の右手の中指、それを覆う手袋に噛み付くと、引っ張って外した。 そして、素の右手、その中指と親指で煙草をつまみ、青年の目の前にゆっくりと持っていく。 しまうのが面倒だからなのか、手袋は口元に咥えたまま……もう一度にやりと笑う。 「煙草だけを、よく見てな」 ブラフかと勘ぐり、煙草を中心に視界を広く取っている青年に笑いながら、その煙草を再度一瞬で消し去ってしまう。 「語部にのみ使える術さ。意思のないモノに限り、空間を移動させることができる」 笑う声にそちらを見やれば、狂の口元には煙草。 そこまで確認し、今度は彼の口に手袋がなくなっていることに気付いた。 狂は、いつの間にか右手に持っていたライターで、咥えた煙草に火をつける。 その右手には……普段通りに手袋がされていた。 「……なにそれ!!」 青年は、大変分かり辛く、しかし彼にしては分かりやすく目を輝かせた。 「面白ぇだろう? ちっとばかしブラフを張って本質を見づらくしちまえば、タネのねぇ技術は、絶対にバレねぇ手品になる」 「ちなみに、こんなこともできるぜ?」 取り出したのは、リンゴ。勿論狂はそれまでリンゴなど所持していない。 それは握った手のひら、それを開いた瞬間に平然と現れていた。 現れたそれを軽い力で上に放る。リンゴは重力に逆らいながら、上方向に15センチほど飛び……そこで止まった。 止まったそれを前に、狂はよくある手品のように、リンゴの上下左右、360度をぐるりとなぞる。 それは、見えない何かがリンゴを中空に釣り上げているのではないという証明。 しかし、狂がそれをすることにより、むしろこの事象にはタネがあるのではないかと勘ぐってしまうのだ。 「オレが確認をする所が……ミソなのさ」 笑いながら、触っていいぜ、と口にした狂に、青年は心なし目を輝かせながらリンゴに触れる。 指先でそっと、その赤い実に触れると、手のひらでゆっくりとなぞってみた。 「うわ、ホントに浮いてるー。でもコレどうなってんの?」 疑問を口にする青年に、男は笑うだけで口を開こうとはしない。 自分で考えろ、とでも言いたいのだろうか。 「うーん。あなたはさっき、こんなことも……と言った。コレがさっきの技術の応用なんだとしたら………もしかして、すっごい短いスパンで重力と反対方向にリンゴを移動してるの?」 狂が若干目を見張る。 「ほう。よく分かったな。大抵は、重力に関する能力があるんじゃねぇかってぇミステイクを誘えるんだがな」 そう口にした狂に、青年が、彼を真似でもしたのだろうか……にやりと笑う。 「くーさんは、何かを話してるときに唐突に違うことをやったりしないでしょ。だったら、これもまた移動能力の応用……ってことかなってね」 「読まれてんなぁ、オレ。しっかし、鳥サンは賢いなあ」 にこにこと笑いながら、青年の極彩色の頭を撫でる男。 それを振り払うでもなく受け止めた青年は、ただ一言呟いた。 「……食えないヤツ」 青年の言葉に、男はただ笑う。 「それを言うなら……お互い様、だろ」 ある昼下がりの、どこにでもある一つの会話。 END. 2010 08 25 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |