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語部な日常

いつの間にか75000打超えていたみたいで……キリ番ですと告知しておけば良かったなぁと若干後悔。77777打もキリ番予定ですので。もし宜しければ、報告頂けますと嬉しいです。

絵を描く気分にならなかったので、続きから小説。
短編でほのぼのとギャグ……チック。歪と刃。
長くなってきてしまって今日中に終わらなかったので、適当にまとめました。
多分後半は明日に。
そもそも落ちをまったく考えていなかったので……終わるのかこれ。
 その日、本邸に帰省していた刃(ヤイバ)は、久しぶりに温泉に浸かろうと思い立ち、現在脱衣所にいた。
 語部の本邸には、狂(クルイ)が設計、制作した露天風呂が存在したりする。
 石組みから脱衣所まですべて設計したらしい。
 無駄なところで本気を出す、実は優秀な男である。
 微妙に生ぬるい目になりながら桶と手ぬぐいを用意する刃は、だから(と言う訳でもないが)気付かなかった。
 疲れを癒そうとやってきたそこで、まさかこんな悲劇……というか喜劇、もとい惨劇に遭遇するとは。


■■語部のそんな日常~露天風呂とジョセフィーヌ~


 カラカラと軽い音がする。
 語部の本邸敷地内の露天風呂、その脱衣所と風呂場を仕切る扉の音である。
 その引き戸から出てきたのは(いや入ってきたのは、だろうか)刃だ。
 ちなみに、この大浴場。設計に関しては、狂が別軸の世界で見かけた浴場を手本としているらしい。
 狂は、別軸世界で見かけたこの『露天風呂』とやらが、いたくお気に入りだった。
 ゆえに、引き戸の放つこの軽い音も、妙なところで完ぺき主義者な狂の、これまた妙なこだわりなのである。

 視界に飛び込んできた光景に、口を空け、さらに瞠目する。
 そこには、歪(ヒズミ)がいた。
 いや、それ自体は別段問題ではない。
 ここは語部たちの共同浴場な訳で。そして彼は、一族の正統な後継で副当主だ。
 日傘をさして露天風呂に入るのはどうかとも思うが、そこにももういい加減慣れた。
 ……ならば、問題はどこにあったか。

 それは、彼が浸かっている湯船の方にあった。
 なみなみと注がれ流れだす湯に浮かぶ、何か大量の黄色いモノ。
 それは、もちろん蜜柑や柚子といったメジャーな香料ではなく。
 なぜか玩具のアヒル。しかも大群。
 既に、浴槽に浮かびきれず風呂場の床にリタイヤしているヤツまでいる有様だ。
 その上、ちゃっかり歪の肩にも一匹……いや、一羽鎮座ましましている。
 その光景は、もう、なんと言うか……アヒル湯というにふさわしい、というか、それ以外に表現しようがない。
 浴槽中が見事に警告色である。いっそ目に痛い。

 刃は目を瞑ると、一度大きく深呼吸をする。
 目を開けば、黄色い大群は……やっぱり消えてくれない。
「…………歪、ここ……こんなもんあったか?」
 コメント、というよりこの現実に困った刃は、とりあえず、無表情でアヒル湯に浸かる歪に問うてみた。
 こちらを注視していた歪の目が……微妙に泳ぐ。
 基本、思考に時間を必要としない歪の、その表情に、刃はアヒル湯以上の衝撃を受けた。

「父上が浮かべたらしい」
 出てきた答えは実に簡潔だ。
 色々はしょられすぎて、彼の答えとしては珍しく、既に回答の形をなしていない。
「いやいや、そもそもこの大量のアヒルどっから来たんだよ」
 刃の言葉に、歪が微妙に眉を寄せる。本当に、今日は色々珍しい。厄日か。
「……ジョセフィーヌだ」
 妙に耳慣れない言葉が歪の口から発せられる。
「……は?」
 自らの常識キャパシティーを軽く超えるそれに、刃は思い切り眉を寄せた。
 ついでに言うと、歪もいまだ微妙に眉を寄せている。彼が、笑顔と無表情以外の表情を、これだけの長時間連続で顔に貼り付けているのも珍しい。
 青年二人が、露天風呂で、実に微妙な表情を浮かべ、無言のまま数瞬見つめあう。
 絵面としては、まあ許容範囲だが、実際のところ四十九歳と三十三歳なので、両者結構ないい歳である。

「彼女らの名だ」
 数瞬後、無表情に戻った歪が話の口火を切る。
 だが、その端的な答えは、たんに謎と突っ込みどころを増殖させただけの気もする。
「……いや。それもうどこから突っ込めば良いんだよ。とりあえず、こいつらに性別はあるのか。てか分かるのか。そしてジョセフィーヌは個人名だろ。集団名じゃねぇって」
 刃はげんなりと返す。つい反射的に突っ込みを入れてしまう彼は、正真正銘、根っからの苦労人気質だった。
 歪は右に目をそらした。肩に乗っていたジョセフィーヌが湯船にぼちゃりと落下する。
 別段狙って乗せていた訳ではなかったらしい。

 まあ、これだけの人口密度……もといアヒ口密度では、ジョセフィーヌに触れないで湯に浸かる方が難しいだろう。
 ちなみに、アヒ口と書いてアヒコウと読む。アヒロではない。
 無論、刃の思考内に突如として現れた造語である。
「我が家……は既に超えているな。我らが一族において、うちの母上は絶対の法だろう」
 微妙にぬるい目をする歪に、刃も激しくぬるい気分になる。
 ついでにバッチリと納得した。
「ああ。なるほど。宴(ウタゲ)姐の差し金か。しかし、よりによってジョセフィーヌ? 全世界のジョセフィーヌ様方に失礼なんじゃねぇのかそれ」
「俺にそれを言うな。母上の話を聞いた父上が言うに、彼女は誇り高き戦士なのだそうだ」
 何だか妙に細かい設定に、刃は再度衝撃を受ける。突っ込みどころが……多すぎるだろう。
 何だこれは、いっそ狙っているのか? 突っ込み待ちなのか?

「戦士なのかよっ。つーか手ぇねぇだろ! 足もねぇよ! どうやって戦うんだっつーのっ」
 思う壺だとは思いつつ、突っ込みに力が入る。
 まあ、多分誰も突っ込みを待っている訳ではないだろうが。
「だから俺にそれを聞くな。母上か、もしくは母上にその辺りを色々聞いたらしい父上に聞いてくれ」
 歪ですらげんなりとしているらしい状況に、刃も思わず沈黙する。
「……分かった。やっぱこれ以上聞かんで良いわ。聞いたら聞いただけ疲れそうな予感がひしひしとするって」
 今度は歪が沈黙する。
「俺はつい先程まで、その辺りの話を、この湯船で、父上に小一時間も聞かされていたのだが」
「……それは……なんつーか…………ご苦労さん」
 刃の口からは自然、ねぎらいの言葉が出る。
 そんな話を、しかもこの黄色い風呂場で。よく一時間も聞いてたなと言いたくなる。
 歪は存外、いや分かりすく過分に孝行息子だった。


「しかし……それなら先に女湯に浮かべりゃ良いのにな?」
「……女湯は既に飽和状態なのだそうだ」
「ああ。そうか。て……納得したくはねぇけど……なるほど」

「そのうち庭の池にも放されるのではないかと危惧している」
「……なんつーか。修羅場だな」
 ジョセフィーヌはまだ増える。

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