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語部な日常制作中イラストや日記用イラスト、雑記雑感などを中心に展開中。まれに版権話や小説が出ることも。PAGE | 639 638 637 636 635 634 633 632 631 630 629 | ADMIN | WRITE 2009.08.05 Wed 15:10:46 幸ふと書きたくなった、狂と幸の出会い編。
名前のなかった彼女。見返りを求めない親愛を、知らなかった彼女。 誰にも、「個」として必要とされていなかった、彼女。 だだっと書いたものなので、文章の詰めが甘いです。そのうち校正したいです。 続きに格納。 * * *
「オレは狂だ。狂う、と書いてクルイ、だが……まあ、あんまり好きじゃねぇから、くーさんとでも呼べばいいぜ」 男は……狂と名乗った男は、そう言って少女の頭を撫でると……にやりと笑った。 「小さいお嬢サン。アンタは、なんて言うんだい?」 その言葉に、少女はその目を……大きく見開いた。 人の名前を、聞く。人に名前を、聞かれる。 それは、彼女がずっと、ずっと恋い焦がれていた、こと。 少女は、急いで口を開いて、そして。 出てこない言葉に、絶望した。 それは確かに、あった。 けれどどこにも、見つからない。 幸せな、時間。大切だった、日々。 けれどそれはもう、紗がかかったように……そう、それは……まるで霧のよう。 掴むことが……できない。 その、稀有な、左右で色の違う瞳から、涙が、こぼれた。 ああ、こんなにも。 こんなにも、幸せな気持ち、なのに…………それがとても、悲しい。 人に触れて。温かさに触れて。幸せに、触れて。 けれどそれは自分のモノにはならないのだと、突きつけられたような、気持ち。 「名前、ないのかい?」 少女の様子に、男は屈みこむことで彼女に目線を合わせると、真剣な眼差しで問う。 少女は、首を振る。 違う。名前は……あった。幸せは、あった。 けれど今は……ない。なにも。 なにも、ない。 「そうか」 男は立ち上がった。頭に置かれていた手のひらが、離れる。 温度が、離れる。 少女は、目を瞑って、そして眉を寄せた。悲しい。 悲しい。悲しい。悲しい。 温度に触れたのに、幸せに触れたのに、それはずっと私のモノにならない。 名前がない。それは……誰にも必要とされていないということ。 悲しい。離れないで。 けれど、カラッポな彼女には、何も差し出せない。 愛情が、欲しいのに。彼女には、何も差し出すモノがない。 鮮烈な世界で、少女は、少女だけは、いつもモノクロだった。 噛み合わない、歯車。 まるで自分だけが、世界にいてはいけないモノであるかのような。 「じゃあ、オレが付けてやる」 少女は瞑った目を、開いた。見上げた先には、笑う、男。 言葉の意味が、分からなかった。ただ。ただ、眩しい。 「イヤかい? まあ、元の名前があったんだからなぁ」 男の言葉に、少女は首を振る。 必死に見上げる少女の瞳に、男はもう一度笑った。 少女の頭を、そっとなでる。 ああ、一体彼女は、どれだけの間「ひとり」だったのだろう。 そう…………思っていたのだろう? その稀有な色の瞳は、彼女を、人と隔たせる。 ああ。そうだ。 「ミユキ、だ」 「みゆ……き……?」 「そう。元の名前を思い出すまでの、仮名さ」 狂は、少女の頭を一つ、撫でた。そのままそっと、涙を拭ってやる。 「みゆき。幸せと書いて……ミユキ。オレにしちゃあ、いい名だと思わねぇかい?」 「みゆ、き…………な、まえ………………わたし、の……名前」 呆けたように繰り返す少女に、男は珍しく、とても珍しく、柔らかくほほ笑んだ。 そしてもう一度、繰り返す。 「オレは、狂。あんたの、名前は?」 瞠目した少女は……けれど初めて、ほほ笑んだ。 「わたし、は………みゆき…………幸、です」 それは、少女が初めて、「ミユキ」になった日。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |